東海大学 工学部精密工学科 槌谷研究室

■医療用マイクロ針の創製

 現在の医療用注射針は,針の外径が0.4〜1.2mmと非常に大きく,刺した時に皮膚組織を破壊するため,患者に肉体的および精神的苦痛を与えている.献血用の注射針は特に外径が大きく外径1.2mmである.また,注射針の材料として剛性,強度,耐食性に優れているSUS304が用いられていが,主元素の鉄には人体細胞に対して毒性があるため生体適合性という点で問題がある.もし刺した時に痛くなく人体に無害というような針が存在するならば素晴らしいと考えます.そこで本研究では,「低侵襲」と「生体適合性」を満足する医療用マイクロ針の創製および血糖値計測用マイクロマシン(Bio-MEM)の開発を目標にしています.
 本研究で創生する医療用マイクロ針は生体適合性を満足し,雌蚊の針のサイズと同程度であり外径が50μmと非常に小さい.この医療用マイクロ針は引抜きなどのトップダウン方式ではなく,原子一つ一つから積み上げるボトムアップ方式を利用します.その中の1つとして、スパッタリングで創製していきます.図からも分かるように,従来の注射針の中に入ってしまうほどの大きさです.

■生体適合性を有するマイクロ無痛針の設計

 私の所属している研究室では、被験者の負担軽減を目的とし,右図に示すようにスパッタリング法による雌蚊の針と同程度の寸法を有する生体適合性チタン製マイクロ針の開発を行っている.しかし,針内・外径の寸法の減少に伴い,吸引機構の高出力化が課題となる. そこで本研究は,ヒトの皮膚に穿刺可能な剛性・靱性,および生体適合性を有し,かつ,痛みの軽減を目的とした皮膚との摩擦を考慮した材料で構成され,皮膚の痛覚への低刺激化,および吸引機構の管摩擦による低負荷を考慮した寸法を有するマイクロ針の設計および開発を目的とする.Gaussian(汎用ソフト)を用いて針の材料と生体内分子との相互作用エネルギ,および細胞を用いた毒性実験から生体適合性の評価を行う.さらには,動物実験を行い,針の寸法・形状,および皮膚との摩擦係数を調査することで,生体適合性を有するマイクロ無痛針の設計を行う.

■マイクロ無痛針最大許容外径の探索

 本研究では注射針穿刺時に生じる痛みについて着目し,自然界にて低侵襲での血液吸引を実現している雌蚊の内唇と同程度であるφ50μmのチタン製マイクロ無痛針の創製を確認している.
しかし,注射針の外径を小さくすることにより,皮膚表面に密集している痛みを司る痛点への刺激の軽減が可能となるが,外径の減少により剛性の減少,内径の減少により管内損失の増大が考えられる.よって,注射針の剛性および管内損失を満たすために外径の増加が必須であるが,穿刺時の痛みも増加する.以上より,注射針を皮膚に穿刺した際に痛みを伴わない注射針の最大許容外径の決定には内径および外径の双方を考慮する必要がある.これより,痛みに対する注射針の最大許容外径の探索が必要である.しかし,ヒトが生活する中で身近である"痛み"について客観的に評価を行う方法は確立されていないのが現状である.
 そこで,痛みもストレスの一種であると考え,一般的にストレスの評価因子である"唾液中α-アミラーゼ"の量を測定することにより注射針を穿刺した際に生じる痛みの客観的評価が可能であることを確認した.この評価手法を用いて注射針外径を起因とする痛みの変化について唾液α-AMY量を測定し,統計的手法によって比較検討を行っている.

■中空管マイクロポンプの流動性の向上

 本研究では糖尿病患者らの自己血糖値測定装置は利便性向上のため,一般的には別離されているポンプと針を一体化することで装置の小型化を目指している.ポンプと針を一体化したマイクロポンプは中空管上に円筒圧電素子(PZT)が等間隔に設置する構造を有し,簡易的な構造のため小型化が容易である.現在,このマイクロポンプの流動性が微量のためその向上が課題となっている.そのため,マイクロポンプの構造,駆動条件の最適化を行っている.中空管マイクロポンプを下図に示す.

■中空管マイクロポンプ用アクチュエータの設計
 槌谷研究室では,針とポンプを一体化した「中空管マイクロポンプ」を開発しています.このポンプには圧電材料であるリング形状のPZTを中空管上に等間隔に設置し,PZTの振動を制御することで中空管内の流体を輸送する仕組みです.本研究では有限要素法を用いて,中空管マイクロポンプのアクチュエータの高機能化を目的としたPZTの形状設計を行っています.現在検討しているPZTアクチュエータ形状としては,



(1) リング型形状に溝を付加する.


(2) リング形状に貫通溝を付加する.


       (1)                                         (2)

などが挙げられます.溝を付加した場合はPZTの変位量が向上し,スリットを付加した場合はPZTの応力集中が無くなり,繰り返し使用に有効であることが解析で判明しました.今後は様々な条件で解析を行い,高機能なPZTアクチュエータ形状の設計を行っていきます.

■血液採取用マイクロポンプアクチュエータ用TiNi薄膜の創製

 血糖値自動測定用デバイスへの搭載を目的とした血液採取用マイクロポンプアクチュエータの開発を行っている.アクチュエータ材料には機能材料の中でも特に大きな変異量が得られるとされるTiNi形状記憶合金(TiNi-SMA)を採用し,アクチュエータの小型化のためスパッタリング法による薄膜化を行っている.
 薄膜化した場合,応答性の向上等のメリットが得られる一方で,バルク材と比べ発生力の低下が考えられることより,TiNi-SMA中でも特に発生力の高いとされる,TiNi(110)単結晶薄膜の創製を目的とし,各種バッファ層による格子定数の制御を行いTiNi(110)の優先配向を行っている.成膜した薄膜に関してはXRD,XPS,TEM等の各種分析装置にて結晶強度,拡散状況等の評価を行い,より高い形状記憶効果を持つTiNi-SMA薄膜の創製を目標とする.

■血液採取マイクロポンプ


 研究内容は『血液採取マイクロポンプ』で、形状記憶合金などの機能材料をもちいてマイクロポンプをつくり微小な量の血液を採取し血糖値の測定を自動で行うことを目的としている.


左の動画は,本研究室で試作した血液採取マイクロポンプの動作実験の様子である.
 まず導電性ゴムに電流を流すことで,ゴムが電気抵抗により発熱する.
 次に導電性ゴム上に成膜したTiNi形状記憶合金薄膜にその熱が伝わり,薄膜が変形するとポンプ筐体内に負圧が生じ,血液が吸引される.


■形状記憶合金の最良形状探索

 形状記憶合金は機能材料の中でも大きな変位量を持つ.しかし,薄膜化に伴う体積減少による,形状記憶合金の変位量低下が考えられる.そこで本研究では,解析ソフトANSYSを用いた最良形状の探索を行っており,変位量の増加を目的としている.

現在は,最良形状探索の前段階として,解析手法の研究を行っている.これは,現在研究中のアクチュエータは,形状記憶合金薄膜に切れ目を入れ,その結果発生した残留応力によって生じる形状変化を変位として記憶してためである.

■MEMS用圧電材料の創製技術の開発

 機械の小型化・高性能化が進む昨今において,センサーやアクチュエータ,電子回路などを一つのシリコン基板上に集積化したデバイス,通称MEMS(Micro Electro Mechanical System)はマイクロマシン工学の中核として研究開発が行われている.このMEMS分野において,マイクロマシン駆動部に用いられる先端機能材料の開発が進められている.槌谷研究室では,その候補の一つとしてマイクロアクチュエータ用圧電薄膜の創製を行っている.研究対象には圧電材料の中でも特に高い圧電性を示すPZT(PbZrTiO3:チタン酸ジルコン酸鉛)に注目し,これの薄膜化,高性能化を行う.

■新規生体適合圧電材料薄膜創製技術の開発

 近年,医療分野においてBio-MEM (生体医療用電子機器)用アクチュエータの研究が進んでいる.このアクチュエータ材料には応答性,生体適合性および環境問題の観点から,高い圧電特性を示す鉛フリーの圧電薄膜が必要とされている.本研究室では,目的とする面方位へ薄膜を制御するバッファ層を導入した圧電薄膜の創製を行っている.しかし,バッファ層により圧電薄膜の格子定数や原子間隔へ歪が生じ,結晶構造が変化してしまう.そのため圧電薄膜に最適なバッファ層の選定を行うことで,圧電薄膜の高機能化を目指す.
 本研究では,バッファ層による歪を考慮した圧電薄膜の結晶モデルを作成し,汎用化学計算プログラムGaussian03より薄膜が安定構造となる結晶モデルを求め,各結晶配向における結晶成長予測手法の提案を行う.

■酵素センサシステムの開発

 人間の血液は人の体の機能、健康を維持するためにはなくてはならないものである.そのため血中の成分からは多くの健康状態を知ることができ,これら健康状態をしる成分を我々は「血中健康指標マーカ」と呼んでいる.よって健康状態を知るためにはその成分を定量的に簡潔に調べることのできるセンサシステムの開発が必要不可欠になる.そのセンサーに使われる方法は特定の物質のみに化学反応を促進させることのできる酵素を利用するものである.そのためには酵素を電極に固定化しなくてはならない,本研究はナノテクノロジーの範囲,工学的見地から酵素を上手く固定化しようというものである.


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